原理主義的な9条護憲派・・・
先日、今井一氏の著書「憲法九条」国民投票の書評を載せましたが、少し補足・訂正が必要だと思ったので書いてみます。
書評では、私は今井氏のことを「改憲を望んでいると思われる著者」と書きました。この点が少し乱暴だったかなーと思って反省しています。というのは、この書き方だったら、普通に読んだら「今井氏は憲法9条を変えたいと思っている人だ」と受け取れるし、実は私自身も確信はなかったものの、そうではないかなーと思っていたからです。
でも、どうやらこちらのインタビューの書き起こしを読むと、今井氏は「原理主義的な9条護憲派」であるらしい。あらら、そうだったのか。となると、私は勘違いしていたことになるし、私の書き方は乱暴で誤解を招く表現だったと思います。訂正して反省しなきゃ・・・。
ただ、言い訳を2点ほど。まず、今井氏は9条については原理主義的な護憲派だそうですが、憲法全体に関してはそうではありません。例えば、2007年に行われたマガジン九条の対談では、以下のように発言されています。
スイスやイタリアが採用しているような、主権者の一定数の署名が集まったら必ず国民投票にかけなければならないという制度を、憲法を変えて導入すべきだというふうに考えています。
つまり、今井氏は「憲法を変えて国民投票を導入すべき」と考えているので、その意味では確かに「改憲を望んでいる」人なわけです。これが1点目。ちなみに、私は憲法を変えてまで国民投票を導入する必要はないと考えています。環境権やプライバシー権も、13条で問題なしという立場です。
次に、2点目ですが、著者は護憲の立場としては、あまりにも無防備で無戦略だと思います。その結果として、私は著者が改憲を望んでいるように誤解してしまいました。
著者の主張をものすごくざっくりと要約すると、まずは「改憲派は解釈改憲で自衛隊の海外派兵などを進めてきたが、集団的自衛権の行使は解釈改憲では無理。そこで明文改憲を目指すようになった」というのが現状認識。そして、「原理的な9条護憲派」の立場からは、「国民投票で改正案を拒否し、解釈改憲にストップをかけるべきだ」と主張します。
また、実際に国民投票を実施する際の条件として、著者は国会に注文を出しています。改正案が承認された場合と承認されなかった場合のそれぞれにおいて、「安保と自衛隊はどうするのか」という選択肢を国会は事前に明示しなければならない、という注文です。
で、著者が例として挙げているその選択肢を読んで、私はちょっとびっくりしてしまいました。具体的な条文の改正案(「改正」という言葉を安易に使っている点もちょっとどうかと思うんですが)は割愛しますが、それが承認された場合と、承認されなかった場合について、著者は次のように書いています。
○改正賛成派が多数を占めれば、自衛隊は日本軍になり、集団的自衛権の行使も可能となる。
●改正反対派が多数を占めれば、自衛隊を戦力・軍隊ではない組織にしなければならない。また、日米安保条約に基づく軍事同盟の体制も段階的に解消しなければならない。
えー、こんな2択を提示されて、本気で反対派が勝つと思ってるわけ?そりゃあ、私も究極的には非武装中立がいいと思っていますが、現状の世論やら選挙結果やらを見ている限り、とても反対派が勝つとは思えないんですが・・・。テポドンあたりが飛んできたときに、「自衛隊を戦力ではない組織に」なんていう方向に世論がなびくと思いますか?そもそも、自衛隊は既に既得権益になっていて組織票ががっちり入りますよ?
言うまでもない話ですが、国民投票になった時点で、もし反対派が負けたら平和憲法は変わってしまいます。なんでわざわざそんな道を選ぶの?てか、「国軍」にするか「戦力・軍隊ではない組織」にするか、なんていう極端な2択をなんで選ばないといけないの?
実際、著者は本の中で、2002年に行われた読売新聞の憲法世論調査を紹介しています。その中には「あなたは、今の憲法を改正する方がよいと思いますか、改正しない方がよいと思いますか。」という質問項目があって、56.9%が「改正する方がよい」と答えたそうです。
こんな現状認識を持った上で、あえて国民投票を主張する「原理主義的な9条護憲派」って・・・。読解力のないあほな私が「この人は憲法を変えたいんとちゃうか」と誤解してしまったのはそんな理由からです。まあ、言い訳なんですけどね。
私は今井氏は実際に護憲派なんだと思うし、それを疑うつもりは全くありません。ジョージ・W・ブッシュだって、もしも自分のことを平和主義者だと思ってるんだとしたら、確かに平和主義者ですよ。彼は彼のロジックと手段で、世界に平和をもたらそうとしたことになります。そのロジックなり手段が適切だったのかどうかはともかく。
ブッシュに例えるのは乱暴かもしれないけど、今井氏の場合も同じ。護憲派なのは確かだとしても、護憲のロジックと手段が適切なのかどうかは別問題だと思います。
長々と書きましたが、趣旨は「誤解してました。ごめんなさい。反省」です。出口の現代文でもやり直そうかと思います。
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私も、今井氏に何か感じます。素直に原発反対してる人には思えない。善良な反原発の人々を利用して権力者側に最後に回る、そのような気がしてなりません。護憲派とてもそのようには思えません、特に国軍と言う言葉でこの方の本音と建前が見え隠れしている様に思えます。私も大阪国民投票に、よく内容も調べずに、反原発投票と思い込み署名運動した者ですが、大阪の住民で無いのに声掛けだけと思いましたが、署名板と朱肉を買って来るように言われそのまま署名集めをしました、その後最終日だったので、その場所の責任者から、打ち上げの話を聞きました。カンパから費用が出ますとはっきり言われそれは違うと思いました。カンパは、住民投票請求の為に集ったお金なのにと不信感と疲労感で情けなくなりました。気がついたら反対方向に誘導されてたと、心ある有志の方が利用されない様にと願います。
投稿: ポッキー | 2012年3月 7日 (水) 20時20分
ポッキーさま、コメントありがとうございます~。
○○派なんていうのは自称だし、実は大して意味がないのかなーと思っています。
カンパで打ち上げは・・・。なんだか罪悪感でまずいお酒になりそうですね~。
投稿: ahotsuka | 2012年3月 9日 (金) 08時06分